誘拐の掟 コメント

小説好きにも「聖地巡礼」がある。ローレンス・ブロックの「スカダー・シリーズ」に触発されて、私が初めてニューヨークを訪れたのは、映画の設定になっている1999年のことだった。

実はこの時、正直がっかりした。どこもかしこも薄汚れて、どこか危険な感じも残り……考えてみれば、新世紀を間近に控えて街全体が「化粧直し」の最中だったから当然なのだが、憧れのヤンキースタジアムやシェイスタジアムも予想より老朽化していて、がっかりさせられたものである。正直、もっと華やかだとイメージしていた。人間の想像力には限界があると思い知らされた次第である。

その頃の雰囲気を、この映画は思い出させてくれた。もちろん、1999年に撮影されたものではないのだが、雰囲気は見事に当時のままだ。安全になったと言ってもまだまだ危ない空気が漂い、街ゆく人々の服も黒や茶色ばかりで暗かった——映像ならではの再現力で、「世紀末」という言葉をつい思い出してしまう。


私が「スカダー・シリーズ」を好きな理由は、優秀な都市小説だからである。そこに生きる人ばかりではなく、時に都市の姿自体を綺麗に映し出す。映画はきちんとそれを踏襲した「都市映画」になっていたわけで、原作ファンとしては、まずそれが嬉しい。その後、「9・11」の悲劇を経験したものの、すっかり化粧直しを終えたニューヨークが失ったものが、映画の中にはあった。


———堂場瞬一(作家)